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紫色の月光

紫色の月光

死神第十六小隊  ?話

死神第十六小隊  第?話



 あの世。

 ここは現世で死んだ者達が集う場所である。
 この一つの世界は幾つかのエリアに分けることが可能なのだが、簡単に分けるなら4つに分けれる。
 一つは現世でも一度は聞いた事があるであろう天国、そして地獄。これは死んだ後、生前の行い次第で行き来が判断される場所である。
 
 次に上げられるのはその天国と地獄のどちらに行くのかを定める『裁判所』だ。ここは他にもあの世の中で悪さをした奴の裁判にも使われる。あの世と言うが、簡単に言うなら死者達が暮らす一つの世界だと考えてもらえれば幸いである。無論、世界の一つなのだからあの世と言えども犯罪は起きるし、トラブルだって起こる。

 そしてもう一つ。最後に上げられるエリアは『死神エリア』と呼ばれる物だ。あの世の死神は二つの種類に分けることが出来る。
 一つは事故や寿命等で死んだ魂をあの世へと運ぶ役目をする死神。
 そしてもう一つは何らかの理由で悪霊と化した魂を鎮圧する役目をもつ死神である。
 
 悪霊と言っても、地獄と言う名の牢獄から脱走して今までのストレスを発散するかのように暴れたりする奴や、現世への未練が次第にその魂を悪霊化させて狂戦士に変貌させる事があったりと、様々なパターンが存在する。
 そんな連中が現世で大暴れする前にとっちめるのが死神小隊なのだ。

 ついでに言うならば、死神小隊の小隊数は無数にある。それは各小隊ごとに一つの惑星を担当している事が理由だ。つまり、星の数だけ死神小隊は存在しているわけである。

 そして、その中でも最近最も評判が悪いのが太陽系第三惑星、『地球』担当の死神第十六小隊である。

 メンバーは7人と、死神小隊の中では少なめの方なのだが、ミッションの成功確立は高い。成功確立と言うのも、死神小隊が仮に強大な悪霊に倒された場合、他の小隊が複数でかかることが許されるわけである。だが、生憎この十六小隊はそんな事が滅多にないのだ。寧ろ他の惑星に駆り出される事が多い。

 しかし、何故そんな小隊が評判が悪いのかと言うと、元地獄の大罪人が二名ほど所属しているからだ。彼らは何らかのトラブルを起こしてはいるが、一応本人達なりにマジメに仕事をこなしている現実がある。

 そして、今回はそんな死神第十六小隊の日常を御覧頂きたい。





 第十六小隊のメンバーは地球担当の為、全員が地球出身の死者である。無論、小隊長も地球出身の死者だ。小隊長の名は桐原・シノブ。女性である。外見年齢は十代後半の少女なのだが、これはあくまで自身の数ある生前の姿の一つなのだ。詰まり、本人が一番気に入っている姿で仕事をするわけである。

 しかし、彼女は見るからにだらしのない格好で『寝ていた』。彼ら十六小隊のあの世での仕事場は何処にでもありそうな普通の事務所の一室で、デスクにソファーに何らかの資料で詰まっている本棚しかない。
 そしてそのデスクの上で鼻ちょうちんを膨らませながら寝ているのがシノブであった。
 此処で死神は寝るのか、というツッコミを下さった皆様の為に言うならば、あくまで可能なだけで、身体は生前の時とは違って必要とはしない。詰まり、どちらでも構わないわけだ。これは食事やトイレにも同じ事が言える。
 しかし、やっぱり寝たいときに寝ると言うのが一番なのだ。そういう法則で彼女は寝ているわけである。

「むにゃむにゃ………もう食べられないよ~」

 随分と幸せそうな夢を見ているようである。しかしそんな彼女の夢を一気に覚ます声が横から発せられた。

「小隊長、お仕事コールです。大至急起きて仕事をしてください」

 横から呆れた声で言うのは同じく十六小隊所属のシャルロット・A・マグダヴェルだ。外見年齢は同じく十代後半、性別もシノブと同じ女性である。

「うぇ~? 今回は何~? 私、まだ書類の片付けが残ってるんだけど?」

 口元から涎をたらしながらシノブは起き上がる。と言うか、それなら寝るなよ、とツッコミを入れたい。

「私だって他のお仕事が入ってるんです。なので、小隊長に地球へ送るメンバーを決めていただけなければならないのです」

 因みに、シャルロットは十六小隊のオペレートタイプの死神であり、戦列へ出て自ら戦うタイプではない。つまり、頭で勝負するタイプなのだ。

「わーったわーった……と、なるとあの問題児五人組な分けだ」

 シノブの脳裏には頼りにはなるが、精神的に色々と問題を抱えている面子の顔が次々と思い浮かんでいく。

「……よし、じゃあ連中を此処に集めろ」

 シノブの顔つきが一瞬にして真剣な物に変わる。が、しかし。

「現在全員此処にいません」

 シャルロットの一言でシノブが派手な音を立ててデスクごと倒れた。

「何!? じゃあシェイドは何処にいる!?」

 シェイドとは十六小隊の中でも古株の戦闘要員だ。十六小隊が今まで戦ってこれたのは彼の存在が大きい。生前は凄腕の魔術師だったそうだが、真実は定かではない。だが、実力があることには変わらない。因みに、『暗黒のシャドウ』の異名で呼ばれている死神でもある。

「シェイドは現在公園で昼寝中です」

「じゃあゼッペルは!?」

 ゼッペルとはシェイドの次に入ってきた死神である。何でも、軍隊によって作られた人型兵器なんだそうだが、どっからどう見ても人間にしか見えない。

「死神養成学校で臨時講師を務めています。先日お知らせがあったじゃ無いですか」

 その言葉でシノブはう、と唸ってしまったのだが、それならばと次の名前を挙げる。

「じゃあマーティオは!?」

 マーティオとは元地獄の罪人である。生前、何やらとんでもない罪を幾つか犯したが為に地獄に送られたわけだが、その地獄で暴れる巨大な悪霊を倒してしまったが為にシノブに雇われた経歴の持ち主だ。尚、泥棒や医者の経歴があるらしく、『怪盗イオ』もしくは『ドクターイオ』の異名で知られている。

「マーティオは現在図書館で読み物をしています」

「ええい! それじゃあカイトは!」

 カイトも元地獄の大罪人である。と言うか、彼が一番特殊な経歴だ。『星破壊』の罪によって地獄の牢獄の一つである氷地獄で永久の眠りについているはずだったのだが、ある事件で開放されてしまい、そのまま色々とややこしい事件に協力してくれたわけでマーティオと同じように雇われたのだ。生前は最少年殺人鬼の経歴があるらしく、『ハゲタカ』の異名で通っている。

「カイトは地獄にいます。何でも、暴れだした死者をとっちめてほしいんだとか」

「ああ、もう! それじゃあネオンに決定! 大至急行かせちゃいなさい!」

 他の四人が使えないと知ってヤケになったようである。
 因みにネオンは現在食堂でラーメン早食い大会に出場していたわけだが、緊急コールで強制的にリタイヤせざるを得なくなってしまった。






 東京タワー。そのてっぺんに赤い服装をした白髪の少女が舞い降りる。

 彼女の名は雪月花・ネオン。
 死神第十六小隊、ゼッペルの次に入ってきたのが彼女である。今の彼女の青の瞳には人々が見るのとは違う景色が写っていた。

「――――――――!!」

 一言で言うなら異形である。竜のように鋭い爪、獅子のような硬い牙、そして悪魔の様な肉体。正に彼女の今回のターゲットである。
 しかしこんな異形がいるにも関わらず、東京の人々はまるで無関心。何時ものように平然と日常を過ごしているのだ。実はこれが悪霊の一番恐ろしい物である。一般の人々には決してその姿を捉える事が出来ず、ただ一方的に理不尽な暴力と殺戮を行うのみなのだ。

「………ターゲット、発見」

 しかしそんな事をさせない為にネオン達死神がいるわけである。彼女達の任務は一秒でも早く悪霊を退治してあの世へと連れて行くこと。

「任務遂行」

 それだけ言うと彼女の左腕から光の弓が出現する。これが彼女の攻撃手段だ。

「………」

 次に矢を構えるが、どうやら悪霊はこちらにまだ気付いていない様子だ。しかもすぐにでも人々を襲おうとしている。
 ネオンから言わせて貰えば現世の人々が悪霊にどうされようがどうでもいいことなのだが、与えられた仕事である限りはあの悪霊を人々に指一本触れさせるわけには行かない。

「………おーにさんこーちらー。てーのなーるほーへー」

 何とも無愛想で感情のない歌なんだろう。
 しかしこれが案外効いたのか、悪霊はネオンの存在に気付く。

「――――――――!」

 獣の様な咆哮をあげて悪霊がネオンへと突っ込んでいく。しかしそれに対して彼女は無表情にこういうのだ。

「……ごーとぅーへる?」

 それと同時、彼女の光の弓から矢が放たれる。それは異常なスピードで悪霊へと突き進んでいき、見事に足へと突き刺さる。

「――――――――!!!!!?」

 悪霊は悲痛な叫びをあげるが、それを気にとめる者はいない。

「………」

 そしてそれに容赦なしで矢を浴びせるのがネオンだ。彼女が次々と放つ矢の前に悪霊は逃げる暇もない。

「さいなら」

 それだけ言うと同時、ネオンが放つ光の矢が悪霊の頭部に突き刺さった。それから数秒としない内に悪霊が音もなく霧散していく。

「………後は任せました」

 ネオンがそういうと、彼女の横に一つの黒い影が降り立つ。男性なのか女性なのかまるで分らないが、その黒い影はネオンの言葉に頷きを一つするだけで返答した。
 影の正体もまた死神である。その役目は戦う力を無くした魂をあの世へと運んでいく事だ。

「………」

 そしてネオンは悪霊だった魂があの世へと運ばれていく様子を東京タワーのてっぺんから見ていた。そしてその様子を最後まで見届けた後、彼女はやはり無愛想な顔で言った。

「みっしょんこんぷりーと」





 十六小隊の事務所へと戻ったネオン。すると、其処には他のメンバーが集まっていた。

「よ、帰ったか」

 ネオンの帰りを真っ先に出迎えてくれたのは小隊長であるシノブである。しかし、ネオンの耳には彼女の言葉は届かない。何故なら既に彼女の鼻が空腹を今にも満たしそうないいニオイを嗅ぎ付けたからである。

「お。流石に食い意地だけなら十六小隊ナンバー1だな。そのとーり! 今日は何と皆で鍋なのだー!!」

 最初にも言ったが、別に彼女達は死んでいる身なのだから食わなくてもOKなのである。しかしやっぱり食いたい物は食いたい物だ。ある意味では十六小隊は本能のままに動く死神集団とも言える。

「でもよ、ネオンがいるんだったら俺達の食べる分が無いんじゃないのか?」

 すると、奥のソファーに座っている面子の一人、カイトが言ってきた。それもそのはず、ネオンはあの世で『ミス大食いチャンプ』の称号を得る程の食いしん坊なのだ。普通の鍋なら彼らが肉を一切れ食べる前にネオンが全て盥上げてしまうだろう。

「ふっふっふっ………私も舐められたもんだねぇ」

 すると、シノブが不気味な笑いでカイトに答える。しかしそんなカイトは、

「別にあんたを舐めたくはねぇ………不味そうだし」

 何か偉く失礼な事を言ってくれた。

「あ、失礼な! 私はこう見えても前世では結構モテたんだよ! ラブレターだって100通近く貰った事があるし!」

『嘘だ!』

 しかし、何故かそこで全員が突っ込んだ。それこそ何処かの鉈を持った少女のようである。
 シノブは確かに外見は美女だが性格にいささか問題があるタイプなのだ。そんな彼女にラブレターが100通も、いや、それ以前に貰える筈がないとメンバーは考えたわけである。何て失礼なんだろうか。

「くっ……! あんた等は小隊長を虐めてそんなに楽しいか!?」

「んなもんどーでもいい」

 すると、そんな小隊長に更なる追い討ちをかけたのがカイトと地獄コンビを組んでいるマーティオである。彼はさっさと飯を食わせろと催促しているのだ。

「む、そうだったわね! 喜べメンバー達よ! なぁんと今回は闇鍋なのさぁ!」

 しかし次の瞬間、メンバーたちが沈黙した。何故なら、彼らは闇鍋の恐ろしさを十二分に理解しているからだ。闇の中で鍋の中身を食べるわけだから、仮に分けのわからない凄まじい物が入っていたとしても食べるまで分らないのである。

「そして今回の鍋はぁ! こっちらぁ!」

 シノブが弾む声で言うと同時、彼らの前に巨大鍋が出現する。軽く10人分はあるだろう。そしてその鍋の蓋をシノブが開けると同時、中身が開放される。

「げっ!」

 カイトが唸る。

「うお!」

 シェイドの顔が青ざめる。

「………」

 マーティオが数歩退く。

「あ、あはははははは……」

 ゼッペルが苦笑している。

「………」

 シャルロットは信じられない、とでも言いたそうな顔をして鍋の中身を凝視している。
 
 ツワモノ揃いの十六小隊の面々がびびるその小隊とはズバリ、世界一くさい食べ物と呼ばれるシュールストレミングである。しかも缶詰のまんま入れられているのだから始末が悪い。

「今回の運が悪い奴はこのクサヤの何倍以上もくさいシュールなんたらを丸ごと食べてもらうからそのつもりでねー!」

 何が楽しいんだろうか。シノブは偉く楽しそうにジャンプしている。







 こんな感じで十六小隊の一日は終わりを告げる。
 しかし、彼らの戦いは終わる事が無い!

 頑張れ死神十六小隊!




「…………缶詰ごと食べちゃっていいんでしょうか?」

『はい?』



 第?話  完


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